コンサル業界は空前のブーム。でも、日本企業は強くなったのか?
コンサルティング業界はこの10年ほど、空前の人気ブームに沸いています。新卒の就職人気ランキングでは常連、中途の待遇もうなぎ登り。「コンサルに入れば市場価値が上がる」──そんな空気が当たり前のように漂っています。かくいう私も、その空気に乗ってこの業界に足を踏み入れた一人です。
しかし、ここで一歩立ち止まって考えてみてください。
コンサル業界が潤う一方で、肝心の日本企業の業績は上がっているでしょうか?
ホンダや日産自動車といった、日本を代表する基幹産業の大手メーカーが軒並み業績不振に苦しんでいます。一方で、外部コンサルに安易に頼らず自前主義を貫くトヨタは絶好調。コンサルにお金を払った会社が苦しみ、払っていない会社が元気──なかなか皮肉な構図です。
私は約9年間、コンサルティング業界に身を置いてきました。IT・ビジネス系から戦略系、官公庁の政策提言まで、幅広い案件を手がけ、管理職としてユニットも率いてきました。そしてキャリアの出発点は、トヨタです。「コンサルの内側」と「コンサルに頼らない会社の内側」、その両方を見てきたからこそ、一つの確信があります。
「コンサル栄えて国滅びる」──この言葉が、どうしても頭から離れないのです。
とどのつまり、これは発注者である事業会社がコンサルの使い方をわかっているかどうかという問題に帰着します。それが業績絶好調のトヨタと、苦しむ他社との決定的な違いです。しかし個別の事象を横に置いて全体を俯瞰すると、もっと根深い構造的な問題が見えてきます。
「紙」を納品して終わるコンサルの”罪”
ヒアリングして、資料を作って、はい納品
コンサルタントの仕事を端的に表現すると、こうなります。
クライアントにヒアリングをする。方向性を「紙」に落とす。アウトプットとしての資料を納品する。──そして、その後の「実行」は発注元であるクライアント自身が行う。
この役割分担、おかしくないですか?
たとえるなら、ミシュランシェフにレシピだけ書いてもらって、「あとは自分で作ってね」と言われるようなものです。そのレシピがどんなに美しくても、腕がなければ料理は完成しません。しかもシェフは「レシピ代」だけはしっかり請求してくる。味の保証はなし。──これがコンサルティングの現状だと言ったら、言い過ぎでしょうか。
本来、プロジェクトの主導権は事業会社が握るべきです。コンサルはあくまでアドバイザーとして、足りない知見を補う存在に過ぎません。ところが現実には、事業会社が丸投げし、コンサルが作った「綺麗な資料」だけが残り、実行されないまま棚の中で埃をかぶる──そんな光景を、この9年間で何度も目にしてきました。
私がトヨタに在籍していた時に肌で感じたのは、経営陣と現場の距離感が圧倒的に近いということでした。自社メディア「トヨタイムズ」を通じて、今会社がどの方向に向かっているかを従業員を含むステークホルダーに適時開示する。そして創業以来の「産業報国の実を挙ぐべし」という豊田綱領が、DNAレベルで組織の隅々にまで浸透している。だからこそ、外部に「考えてもらう」必要がないのです。トヨタと他社の差は、この一点にあると私は考えています。他の会社は自社の利益を追い求めることしか考えないか、あるいは保身ばかりですが、トヨタはDNAレベルで視座がまるで違うのです。
業績ではなく「Fee」にコミットする無責任構造
もう少し踏み込みます。
コンサルのアウトプットは「ペーパー」や「機能群としてのソフトウェア」です。しかし、本当にコミットすべきは「結果(=業績)」ではないでしょうか。どれだけその企業に利益をもたらし、変革ができたかというその一点です。
もし企業価値向上に本気で寄与したなら、コンサルの報酬は株価に連動した形であるべきです。時価総額が上がった分だけ報酬が増える。成果を出せなければゼロ。そのくらいの覚悟がなければ、「伴走者」とは到底呼べません。しかし現実は、そうした成果との連動が非常に中途半端なビジネスモデルになっている。これが今のコンサルというビジネスそのものの実態です。
ちなみに、「伴走」という言葉、最近コンサル業界で急に流行り始めたと思いませんか? つい数年前まで「伴走」なんて言葉を使うコンサルタントは皆無でした。それが今や猫も杓子も「伴走支援」。本当に伴走しているならいいのですが、言葉だけが先行しているケースも少なくありません。見極める目を持ちたいものです。
稲盛和夫の「人生の方程式」が暴く根本原因
能力 × 熱意 × 考え方 ── 恐ろしいのは「マイナス」があること
では、なぜコンサル業界にこうした構造的な問題が蔓延しているのでしょうか。
その答えを教えてくれたのが、稲盛和夫氏の「人生の方程式」でした。
私は以前、稲盛氏の元部下でJAL再建を共に成し遂げた大田嘉仁氏(現小林製薬会長)の講演を直接聴く機会に恵まれました。氏がまず語ったのが、稲盛氏の代表的な考え方であるこの方程式です。
人生・仕事の結果 = 能力✖️熱意✖️考え方
- 能力(0〜100点): 才能や知能
- 熱意(0〜100点): 情熱や努力する姿勢
- 考え方(-100〜+100点): 人としての生きる姿勢
この方程式の最大の特徴にして最も恐ろしい点は、「考え方」にだけマイナスがあるということです。
能力が90点、熱意も90点。就活なら間違いなく内定総なめの超ハイスペック人材です。しかし「考え方」がたったマイナス1だとしたら、結果は-8,100。掛け算の恐ろしさです。高学歴で頭の回転が速く、長時間労働も厭わない。しかし、「クライアントの業績を本気で良くしたい」ではなく、「綺麗な資料を作ってFeeをもらえればいい」という考え方で仕事をしていたとしたら──その結果がマイナスになることを、この方程式は冷徹に教えてくれます。
これはどの企業変革を成功させた経営者も、皆口を揃えて言うことです。
私自身、コンサルで部下を育てる中で一つの確信を持ちました。コンサルタントとして成長する人間の特徴を一つ挙げるとすれば、それは何事にもオーナーシップを持って取り組み、「昨日よりも今日、今日よりも明日」という弛まぬ改善意識を持っているかどうかです。「上司に言われたことをこなせばいい」という受け身の姿勢では、大幅な成長は見込めません。考えることを放棄した瞬間、成長は止まります。 これは稲盛氏の方程式における「考え方」が、ゼロどころかマイナスに転落する瞬間とも言えるでしょう。
JAL幹部はなぜ変われたのか──「コンサル的数値重視」からの脱却
大田氏は講演の中で、こう述べていました。
「当時のJAL幹部はプライドが高く、現場よりもコンサル的な数値を重視する傾向がありました。」
この一言に、私は強烈な既視感を覚えました。まさに、自分がいた業界そのものだったからです。耳が痛いとはこのことです。
2010年1月、1兆3000億円という戦後最大の負債を抱えて倒産したJAL。その再建を託された稲盛氏が最初に行ったのは、最新のITシステム導入でも、華やかな成長戦略の策定でもありませんでした。幹部50名に対する計17回のリーダー教育──つまり、「考え方」を変えることから始めたのです。
当初は猛反発もあったそうです。しかし、78歳にして無報酬で再建に身を投じる稲盛氏の「無私の姿勢」に触れるうち、幹部たちの意識は徐々に変わっていきました。78歳・無報酬──この2つのキーワードだけで、どれほどの覚悟か伝わるのではないでしょうか。「利他の心(世のため人のため)」を経営の根幹に据え、「部下をまとめるマネージャー」ではなく「部下の心を動かすリーダー」を育てる。
結果として、JALはわずか1年目に1,882億円、2年目に2,049億円という過去最高の利益を叩き出し、わずか2年7ヶ月で再上場を果たしました。
紙の上の数字ではなく、「人としてどう生きるか」という哲学が、1兆3000億円の負債を抱えたJALを生き返らせた。 これは、AIがどれだけ進化しても変わらない本質だと私は考えています。
関連記事: 大田嘉仁・日本産業推進機構特別顧問「どんな環境下でも努力する。稲盛さんは強さと優しさを併せ持つ人でした」|財界オンライン
AIには代替できない「人間の仕事」とは何か
アメーバ経営──「全員が経営者」になる仕組み
JAL再建が成功したのは、フィロソフィ(哲学)という「ソフト面」だけではありません。同時に導入されたのが、アメーバ経営という「ハード面」の仕組みでした。
組織を小さなユニットに分け、それぞれの採算を明確にする手法です。
- 「採算の見える化」: フライト1便ごとの収支、機内販売の利益などを明確にした
- 「発生主義」による管理: 経費が発生した時点で即座に数字に反映させ、リアルタイムで経営状況を把握する
- 「経営者意識」の醸成: 現場の社員一人ひとりが「どうすれば売上が上がり、経費が下がるか」を自ら考える
かつて「予算は使い切るもの」と考えていた社員たちが、「1円でも経費を削り、1円でも売上を伸ばそう」という経営者感覚を持つ集団へと変貌したのです。年度末に帳尻を合わせるために無理やり予算を消化する──日本企業の「風物詩」とも言える光景が、JALからは消え去りました。
売上を少しでも上げ、経費を少しでも下げる。 何の変哲もない、当たり前のことです。しかし、この「当たり前」を全社員が自分ごととして考えられるかどうか。これこそが会社の発展の最も基礎となる考え方であり、AIには絶対に代替できない「人間の仕事」の本質だと私は考えています。AIは数字を最適化できますが、「この1円を削ろう」と腹の底から思えるのは、当事者意識を持った人間だけです。
AIが暴く「バリュー」の真実──”紙の仕事”の終焉
「実行支援」という後付けの化けの皮
AIの進化によって、「紙を作るだけ」のコンサルタントのバリューの無さが、いよいよ白日の下に晒されつつあります。
SaaS業界ですら、AIの急速な進化によってビジネスモデルの前提が揺らいでいます。「紙」を主たるアウトプットとしてきたコンサルが無傷でいられるはずがありません。
慌てたコンサルティング各社が「実行まで一気通貫で支援します」と後付けの発表を出していますが、私に言わせれば、業績につながっていないことは以前から分かっていたのに、疑問を持たずに見て見ぬフリをしてきたに過ぎません。
本当に企業価値向上に貢献するコンサルタントになるためには、外野からああだこうだ言い、納品目的の資料作成を行うのではなく、クライアントと共に汗水を流し、現場に入り込むことが不可欠です。そして経営層が何を問題意識として持っているかの解像度を極限まで高める必要があります。そのためには、クライアントのメンターとなるような太いパイプを持ったコンサルタントが求められるのです。
魂の入っていない「実行支援」は、すぐに見透かされます。
便利な時代だからこそ「精神の涵養」を
最近、AIを活用して仕事を効率化する中で、ふと気づいたことがあります。一人で作業する時間が、圧倒的に増えたのです。
テクノロジーの発展で確かに便利にはなりました。働き方改革が進み、NISAで投資の門戸が開かれ、世の中は全体として良い方向に進んでいます。しかし一方で、人と人の関係性──特に相手への理解の「深さ」──が浅くなっていることにも目を向けなければなりません。フォロワーが1万人いても、本音で語れる相手が一人もいない。SNSで誰とでもいつでも繋がれるのに、逆に孤独感を覚えるという現代特有の問題は、まさにその象徴です。
コンサルの世界でも、リモートワークから出社回帰のトレンドが起きています。パートナーやマネージングディレクター層がよく言うのは、「クライアントとのミーティングの行き帰りのちょっとした雑談で、部下を育てていた。その機会が失われた」ということです。効率化の裏で、確実に何かが失われている。
世の中が便利で快適になっている今だからこそ、改めて「精神の涵養(かんよう)」を意識しなければなりません。
世の中がAIで効率化に突っ走る中で、あえて「AIを使わずに本質を考える」時間を持つ。生成AIで仕事をハックしながらも、立ち止まって「人としてどうあるべきか」を問い続ける。盲目的に一つの方向に突っ走った結果、大切な視点を見失うということは、往々にしてあります。
自分を過信せず、常に物事の見方においてバランスを取ること。この激動の時代だからこそ、それが特に重要なのだと私は考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. AI時代にコンサルタントは不要になりますか?
A. 「紙を作るだけ」のコンサルタントは淘汰される可能性が高いです。しかし、クライアントの経営層と太いパイプを持ち、現場に入り込んで伴走できるコンサルタントの価値はむしろ上がるでしょう。稲盛氏の方程式で言えば、「能力」はAIで補える時代になりましたが、「熱意」と「考え方」は人間にしか持てません。AIに「利他の心」をインストールできる日が来るまでは、人間の出番です。
Q. コンサルに依頼する際、何を基準に選べばよいですか?
A. 最も重要な基準は「結果にコミットしてくれるか」です。綺麗な資料の納品ではなく、業績改善にどこまで責任を持つのかを確認してください。また、現場を実際に見に来てくれるか、経営層との信頼関係を重視しているかも判断材料になります。「紙」ではなく「成果」で語れるコンサルを選ぶこと。そして何より、自社のプロジェクトの主導権は自社が握り続けること。これが鉄則です。
【まとめ】
- コンサル業界は空前のブームだが、日本企業は必ずしも強くなっていない。ヒアリングして資料を作って納品する──「紙を作るだけ」の無責任構造が、現場力を削いでいる。
- 稲盛和夫の「人生の方程式」は、その根本原因を示している。能力×熱意×考え方──「考え方」にだけマイナスがあり、どれだけ優秀でも考え方が利己的であれば、結果は大きなマイナスになる。
- JAL再建が証明したのは、「哲学(考え方)」と「仕組み(アメーバ経営)」の両輪の力である。ITでも戦略でもなく、人の心を変えることから奇跡は始まった。
- AI時代に淘汰されるのは「紙の仕事」であり、淘汰されないのは正しい「考え方」を持った人間である。
「心が良くなれば、行動が変わり、結果(数字)が変わる。」
稲盛和夫氏のこの言葉は、AIがどれだけ進化しても、不変の真理であり続けるでしょう。テクノロジーが急速に進化する今こそ、人としての「考え方」を磨く。それこそが、AI時代において最も確実な「淘汰されない方法」だと、9年間のコンサル経験と、その先の決断を経て、私は確信しています。


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